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商社の再エネビジネスは地元と二人三脚 丸紅が「小水力発電」に託した大きな夢




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商社の再エネビジネスは地元と二人三脚 丸紅が「小水力発電」に託した大きな夢

商社の再エネビジネスは地元と二人三脚 丸紅が「小水力発電」に託した大きな夢: 福島県下郷町の山間部にある「花の郷小水力発電所」。一見すると小さな山小屋のようだ。すぐ脇にある電柱から、周辺の民家へ直接電気を供給しているという。ここで、本当に新エネルギーに関する先進的な取り組みが行われているのか© diamond 福島県下郷町の山間部にある「花の郷小水力発電所」。一見すると小さな山小屋のようだ。すぐ脇にある電柱から、周辺の民家へ直接電気を供給しているという。ここで、本当に新エネルギーに関する先進的…

 本当に発電所なのか――。

「それ」を初めて見たときに抱いた、率直な感想だ。

 約150年前の戊辰戦争において、新政府軍と旧幕臣の激戦が繰り広げられた福島県会津若松市。白虎隊の悲劇やNHK大河ドラマ『八重の桜』の舞台として名高く、訪れる人が絶えない観光地だ。そんな会津若松から在来線で40分ほど山間に入ったところに、南会津郡下郷町という温泉郷がある。最近、この町に再生可能エネルギー開発の先端を行く施設ができたことを知る人は、まだ少ないだろう。

 その施設とは、総合商社の丸紅が手がけ、今年4月に運転を開始したばかりの小水力発電所「花の郷(はなのさと)発電所」である。小水力発電とは、農業用水や河川の高低(落差)を利用する小規模な水力発電のことだ。

1LDK程度のスペースで驚きの発電力会津の山間に佇む「小水力発電所」

 水力発電といっても、その印象は我々がすぐに思い浮かべるダムのような派手なものからはほど遠い。発電所を実際に見ると、外観は1LDKのマンションの部屋程度の広さしかなく、山小屋のようだ。しかし、これが思いのほか「いい仕事」をする。発電の仕組みは、阿賀川水系大沢川の農業用水路から取水し、直径約80cmのFRPM管(強化プラスチック製の水圧管)で水を下流へ約1.2km運び、約40mの落差を利用して管で水を落下させ、崖下にある発電所内の水車・発電機を回し、発電するというシンプルなもの。これだけで最大出力(認可出力)約175kW、年間発電電力量100万kWhを実現し、周辺の一般家庭約300戸分の電気をつくり出せるというのだ。

 再生可能エネルギーというだけあって、小水力発電のウリはC02を排出しないクリーンさをはじめ、徹底した環境への気遣いにある。花の郷発電所の場合、水圧管路は道路に埋設しており、発電所は茶色の山小屋風のつくりにしているため、景観を損ねない。発電設備は小型なので、音が静かで近隣に騒音をまき散らすこともない。さらに、発電に使った水は発電所の脇から再び大沢川に放水するため、下流への影響を与えない。発電所でつくられた電気は、発電所のすぐ脇に設置された電柱から直接周辺の民家に送られる。

 このように環境負荷を極力低減し、エネルギーの「地産地消」を実践しているのだ。近隣の道の駅「三彩館」に常備された水力発電の仕組みがわかる学習施設によって、住民に対する環境学習も行われている。こうした再生可能エネルギーへの取り組みが、原発事故で揺れた福島県の地方自治体で進められているという事実は、感慨深い。

「そもそも花の郷発電所のプロジェクトが持ち上がった背景には、ちょっとしたドラマがあったんです」と語るのは、このプロジェクトをリードする丸紅の大西英一・電力本部国内電力プロジェクト部部長代理だ。ことの発端は、小水力発電を手がける丸紅の噂を聞き、下郷町の前町長が相談を持ちかけたことだった。2011年3月に発生した東日本大震災で、同町は地震や原発事故の影響を全く受けなかったにもかかわらず、風評被害で観光客が激減。事態を打開すべく町長が考えたのが、水がきれいな会津地方の魅力を世間にアピールするため、クリーンエネルギーの拠点を町内につくりたいというものだった。

「水力発電で町の電気を全部賄えるくらい、本格的にやってくれないか」という熱心な相談に心を打たれた大西氏は、全く土地勘のなかった場所にもかかわらず現地調査に乗り出し、発電所の設置を決めたのだ。

 発電所の誘致決定を見届けた前町長は、任期満了で役所を引退。その後、ほどなくして倒れ、この世を去ってしまった。「それからは、真冬の大雪の中での工事も、めげずに頑張りました。我々に地元の未来を託してくれた前町長の遺志に報いるためにも。その思いを実現させることができました」と、大西氏は感慨深げに振り返る。

 部材の調達から発電所の建設まで、節約に節約を重ねた総工費は約2億円。これが採算ラインを維持できるコストだった。利益はもちろん大事だが、民間企業と地方自治体が一緒に再生可能エネルギーのモデル地域をつくれることに、同社は将来性を感じているという。足もとでは下郷町でもう1ヵ所、近隣の猪苗代町で1ヵ所の小水力発電所を計画中だ。

電力小売り事業にも参入再エネに賭ける勝算

 商社が再エネビジネスをやっていると聞いて、読者諸氏の中には意外に思う向きもあるかもしれない。だが、もともと総合商社は、海外で長く火力・水力発電などの大規模公益事業を手がけてきた実績を持ち、発電事業は得意分野。丸紅をはじめ、三井物産、三菱商事、伊藤忠商事といった商社も、海外の再エネ関連企業との出資・提携関係などを通じて、グローバルに事業を拡大している。

 ここに来て元気があるのが、国内の再エネビジネスだ。背景には電力自由化の波がある。2000年3月の電気事業法改正により、それまで電力会社(旧電力)が独占していた電力小売りの一部自由化が始まり、2004年以降、順次自由化範囲が拡大されている。2016年には全面自由化が始まる予定だ。こうした潮流を睨み、丸紅は2000年7月、経済産業省に「特定規模電気事業者」の届け出を行い、電力小売り事業に参入した。

 現在は新電力(PPS)事業者として、新規電源の建設・余剰電力の確保と共に、北海道、東京、中部、関西、中国、九州電力管内にて、電力の小売りを展開中だ。その量は、2015年4月1日時点で、スーパー、オフィスビル、官公庁施設などとの全国2800以上の契約地点を通じ、約120万kW規模に上る。すでに「新電力」として国内3位の規模に達している。

 目下、国内の電源開発は17件。火力発電のほか、水力発電、風力発電、太陽光発電(メガソーラー)、バイオマスといった再生可能エネルギーにも注力しており、再エネ電源は全体の約7割(2015年7月現在)、電気小売事業向けの再エネ電源取扱い比率は全体の約25%(2013年度実績)と高い。なかでも同社国内電力プロジェクト部が注力している事業の1つが、小水力発電なのだ。そもそも水力発電は同社が電力小売りに参入したきっかけでもあり、水力電源を自社で保有しているのは、新電力事業者の中で同社だけである。

 現在、稼働している小水力発電所は国内8ヵ所。長野県伊那市の三峰川(みぶがわ)第三・第四発電所、同県茅野市の蓼科第一・第二発電所、山梨県北杜市の北杜川子石発電所、北杜西沢発電所、北杜蔵原発電所、そして冒頭で紹介した福島県下郷町の花の郷発電所だ。小水力発電所の出力はこれらを合わせて約2000kW程度であり、同社の国内電力事業における水力のシェアも8%と、規模はまだ小さい。「大きなビジネスに育てるのはこれから」(大西氏)という状況だ。

 こうして見ると、丸紅が手がける小水力発電は、総合商社の再エネビジネスの中では意外なほど地味な印象だ。なぜ同社は小水力発電に目を付けたのか。その理由は、他の再生可能エネルギーにはないメリットがあるからだ。

 最大の利点は、太陽光や風力のように発電量がブレないこと。たとえば太陽光なら雨の日や曇りの日は利用できないので、発電施設の設備利用率は日本の場合、年間で12~13%程度に留まる。それに対して専ら水量が安定した農業用水路を使う小水力発電なら、設備利用率は8割近くにもなるという。また、場所をとらないメリットも大きい。「たとえば、1400kW程度の太陽光をつくろうとしたら2ha(2万平米)ほどの土地が必要となるが、小水力発電なら、ケースによって会社の会議室の1.5倍程度のスペースでそれが可能になる」(大西氏)。電力事業者にとって、水力は魅力的な安定電源なのである。

小水力との「出会い」は偶然?丸紅が手に入れた最強の相棒・三峰川電力

 では、同社はどんなきっかけで小水力発電に参入し、これまでどのようにビジネスを育ててきたのか。その経緯を振り返ろう。

 大西氏によると、「始めから小水力をやろうと思っていたわけではなかった」という。丸紅は2000年7月に電力小売りへ参入したものの、当初は供給できる電力がなく、独自の発電所を持たなくてはいけなかった。そんな折、関係者が営業活動の中で出会ったのが、長野県伊那市で水力発電を手がける三峰川電力株式会社だった。1960年の設立当初から「流れ込み式」というダムを持たず環境に与える負荷が少ない方式で水力発電を行ってきた同社のノウハウは、今の小水力発電の原型と言えるものだった。その技術力に着目した丸紅は、親会社の昭和電工から同年8月に株式譲渡を受けて三峰川電力を完全子会社化。以後、水力発電の全てを同社と二人三脚で行うことになる。

 当時、三峰川電力が伊那市に持っていた「三峰川第一発電所」「三峰川第二発電所」においては、南アルプス仙丈ヶ岳を源とする三峰川の本流と、その支流12ヵ所の取水所より水を取り入れ、隧道で水槽に導き、第一発電所では約260m、第二発電所では約330mの落差のある地形から水槽に貯められた水を水圧鉄管で落下させることによって、総出力3万2800kWの発電を行っていた。川の上流に位置する第二発電所で発電に使った水を、下流に位置する第一発電所の発電にも回す、という手法だ。

 丸紅にはノウハウがなかったため、当初1~2年間は三峰川電力から専門技術を持つ人員を受け入れ、人によっては丸紅に転籍してもらって、この2つの発電所の運営によって得た電気を販売していた。だが、「既存の発電所の運営をしているだけでは発展はない。新しいビジネスを始める必要性を感じた」(大西氏)。そこで、三峰川電力の得意とするノウハウを応用して考案したのが、小水力発電だったのである。

 環境的な追い風もあった。丸紅が水力発電に参入した2000年当時、再生可能エネルギーの事業化には制度的補償も少なく、採算度外視を覚悟したチャレンジをせざるを得なかった。そのため、小水力発電の構想は以前からあったものの、なかなか実現できずにいた。

 しかし、2002年にRPS法が施行され、電力会社に対して一定割合で再生可能エネルギーの導入が義務付けられると、再エネをビジネスにできる見通しが広がり、「最初は儲からないかもしれないが、やっていく価値はある」(大西氏)という判断に至ったのである。2006年には、最初の小水力発電所となる「三峰川第三発電所」(出力260kW)を稼働させた。

知恵を絞って建設・運営費を合理化「三峰川第三・第四」で培ったノウハウ

 第三発電所の運営は、クリーンエネルギーという言葉を体現するかのように、まさにエコだった。水槽から既存の第一発電所へと続く水圧鉄管を途中で分岐し、第一発電所より上方に新設された第三発電所の発電機に導水してそこで発電を行い、発電後の用水を第一発電所の冷却水として再利用するというものだ。それまで第一発電所の冷却水は、川の下流から40mほどポンプで汲み上げて使っていたため、電気代が嵩んでいたが、水の再利用によってその必要がなくなり、省エネ化を実現することができた。第三発電所の新設で売れる電力が増えることに加え、既存の発電所にかかっていたコストのスリム化も図れるという、一石二鳥の策だった。

 次に手がけた三峰川第四発電所(出力480kW)は、それまで発電後に川に放流していた第一発電所の放流水の一部を取水し、地形の落差を使ってもう一度発電する目的で、2009年2月に第一発電所の下流で稼働した施設だ。このときも、課題となったのは建設コスト。水力発電所は水の量と水を落下させる際の地形の落差によって出力が決まるが、現実問題として、同じ水の量と地形の落差を得られる場所はどこにもない。よって、発電所をつくる際は、その地点で最も効率よく最も多くの水力を利用できるよう、一からオーダーメイドで形やサイズが異なる水力発電機・水車を設置するのが普通だ。ところが、第四発電所についてはオーダーメイドだと総コストが7億円もかかり、予算オーバーになるという試算が出た。

 そこで関係者は発想を転換した。オーダーメイドをやめて汎用品の発電機を6台使うことにし、水量変化に合わせて各々の発電機が動いたり止まったりするように、稼働台数を切り替え制御することにしたのだ。水量が多い季節には並列6台をフル稼働させるが、少ない季節には何台かを休ませる。このコントロールにより、最適化されたオーダーメイドの発電機でなくても、効率的な発電を実現することに成功した。また、取水した水を導水する水圧管も、これまで使っていた鉄管に替え、安価・軽量で一定以上の強度を保てるFRPM管(強化プラスチック製の管)を採用した。FRPM管は熱に弱いため地面に埋設する方法をとったが、そのやり方は冒頭で紹介した花の郷発電所などに踏襲されている。こうしてコストカットを試みた結果、第四発電所は当初の試算から約3割安い4億5000万円ほどで建設することができた。

 三峰川第三、第四発電所の試行錯誤と成功は、その後の小水力発電事業の転機となった。丸紅の取り組みがメディアで取り上げられ、小水力発電に関わる人々の注目を浴び始めたこともあり、同社がチャレンジできるビジネスの幅は広がっていったのだ。

 たとえば、小水力の第三弾として2011年6月に稼働させた長野県茅野市の「蓼科発電所」(出力260kW)は、地域に昔から存在した古い発電所を「リユース」したパターンである。基となったのは、1950年代に地元の蓼科開発農業協同組合が建設した、小斉川の農業用水を発電用水として利用する小水力発電所だった。

 もともと温泉旅館のお湯を焚き増しするための発電に使われており、老朽化して運転を休止していたが、地域のシンボル的な存在だった発電所の復活を望む地元の声は多かった。そのことを懇意にしていた廃棄物処理業者から大西氏が偶然聞きつけて買い取り、水路設備の改修、発電機の入れ替えなどのリニューアル工事を行って、蘇らせたのだ。

 2014年1月には、茅野市滝之湯堰の農業用水と、蓼科発電所で使用した水を、下流にて再度発電用水として使用する「蓼科第二発電所」(出力141kW)も稼働。こちらは、周辺の一般家庭約250世帯分の年間電力消費量を賄えると見込まれている。

小水力の可能性を切り拓いた山梨県の官民一体プロジェクト

 2012年2月に開始された「北杜市小水力発電事業」は、本格的な官民一体プロジェクトだ。山梨県北杜市と三峰川電力が官民パートナーシップを結び、丸紅が小水力発電所の開発・運営を手がけている。これは、地元で1000年の歴史を持つ土地改良区の用水路を利用して発電するプロジェクトで、北杜市六ヶ村堰用水路の約16kmの間に北杜西沢発電所(出力220kW)、北杜川子石発電所(同230kW)、北杜蔵原発電所(同200kW)の3ヵ所(総出力650kW)の発電所が建設された。使った水は再び用水路に流れるため、川の形態を壊すことなく自然に優しい発電事業となっている。

 このプロジェクトは、官民双方にとってメリットがあるという点で注目された。北杜市は丸紅に開発の許可を与えるだけで、税金は一切使わず、「北杜市ウォーターファーム」として地域起こしのPRもできる。片や丸紅側は、市のお墨付きをもらうことで、土地や水路の使用に関する住民の合意をスムーズに取り付け、発電事業を行うことができる。このプロジェクトを通じて丸紅の発電事業のノウハウは本格的に高まり、RPS法に代わって同年施行されたFIT(固定価格買い取り制度)の追い風もあって、加速度的に発電所の建設を進められるようになったという。

 北杜市などの成功事例が知れ渡るようになったことにより、地元に小水力発電所を誘致しようとする地方自治体からの問い合わせも増えた。冒頭で紹介した福島の「花の郷発電所」も、自治体の首長の働きかけによって誘致が実現したパターンだった。足もとでは新たに、前述した福島の2ヵ所に加え、広島でも古い発電所のリユースによるプロジェクトが3ヵ所計画されている。

 こうした各地の発電所は長野県伊那市の三峰川発電所の本社から常に監視されている。福島などプロジェクトの範囲が広がるにつれ、緊急事態に本社から関係者がすぐに駆けつけられない遠隔地の発電所も増え始めたが、「現地に関係者が交代で滞在し、保守・点検や本部との連携を図っている」(長田繁三郎・三峰川電力管理部プロジェクトマネージャー)。

 丸紅のような商社が、比較的短期間でこうした小水力発電のノウハウを身につけ、事業化のメドを立てることができた理由は何だろうか。大西氏は、水力発電所の建設にはクリアしなければならない「権利」のハードルが多いため、「何より地域との信頼関係が大事」と語る。

 たとえば水利権だが、河川は河川法によって、一級河川(国の管轄)、二級河川(都道府県の管轄)、準用河川(市町村の管轄)、普通河川(河川法の適用外だが状況に応じて市町村が管理)などに等級が分かれており、水の利用にはそれぞれの許可権者に許可をとる必要がある。一般的に一級河川の水利権をとるには、利用する流域の水量を何年分も測定してデータを国交省に提出したり、役所が申請内容を審査したりする事前準備・手続きによって、以前は長期間を要した。丸紅は多くの発電所で普通河川を利用してきたが、三峰川第四発電所と花の郷発電所の建設時には一級河川の水利権を取るため、それぞれ2年、半年程度の時間をかけている。

 これだけでも大変だが、農業用水路などを使う際には、河川法ができる以前から水を使ってきた地元農家などに慣行水利権が生じるため、彼らの理解も得なくてはいけない。「発電に使った水を水路に戻す」「使用料を支払う」など、地元のメリットを考慮する必要がある。また発電所を建設する土地も、個人の所有者や権利者から購入する場合が多いが、地元に害を与えるものではないことを根気よく説明し、自分たちを信頼してもらわなくてはいけない。

 こうした交渉事の多さもあり、事業をスムーズに進められるかどうかは、地元との信頼関係を築けるかどうかに大きく左右されるのだ。その意味では、前述の北杜市とのコラボのように、始めに地域全体での協力体制を取り付けられる案件を模索していくことも必要となる。

地域との共存共栄がキーワード「僕らが業界の起爆剤になりたい」

 業種によっても事情ややり方は異なるだろうが、今後民間企業が再生可能エネルギーをビジネスとして成功させるためには、こうした地域との「共存共栄」が1つのヒントになると言えそうだ。水力発電について考えてみよう。そもそも近代日本の電力を担っていたのは水力発電であり、戦前から戦後の高度成長期までの日本には、地域密着型の小水力発電所が国内にたくさんあった。その後、石炭から石油、さらには原子力へとエネルギーシフトが進むなか、電力会社の電力網が全国に普及し、小水力発電は廃れて行った。

 しかし、再生可能エネルギーの必要性が改めて問われている今、古くから住民が慣れ親しんだ小水力発電のようなノウハウに再び注目することは、地域へのエネルギー供給の仕組みを考え直す上で、最も効果的な方法の1つではないかということに、改めて気づかされる。丸紅の小水力発電も、言い換えれば、古き良きインフラの再発見・再利用活動だ。さらなる制度整備の必要性も指摘されてはいるが、足もとではFIT(固定価格買い取り制度)の追い風があり、小水力発電への参入・活性化を模索する地域住民や団体は増えているという。ただ、業界はまだ成熟していない。海外資本と連携した洋上風力発電が話題になるなど、商社の再エネビジネスには目立つ案件が多いが、「究極のエコ」を目指す国内の地道な取り組みも、興味深く見守りたい。

「小水力は金儲けのイメージが強い商社には、似つかわしくないビジネスかもしれませんね。正直、周囲に『お前、儲かるんか?』と聞かれることもよくありますよ。でも、意義のある仕事だと思っている。まずは僕らが起爆剤になって、業界を活性化させることが大事だと思っています」

 大西氏は笑う。当面の目標は、東京五輪が開催される2020年までに、小水力発電所を全国30ヵ所まで増やすこと。小さな発電所が大きなビジネスの夢を紡ぐ。雨の日も風の日も、東京本社と日本各地を往復する関係者の忙しい日々は、終わりそうにない
by denhazim | 2015-09-25 10:04