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財政で「ダチョウの平和」許すな 日本財団会長・笹川陽平

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財政で「ダチョウの平和」許すな 日本財団会長・笹川陽平

 ≪「国の借金」は1千兆円超≫

 経済には疎いが、「国の借金」が1千兆円を超えた日本の財政について専門家の話を聞くたびに「ダチョウの平和」という言葉を思い出す。

 ダチョウは危機が迫ると砂の中に頭を突っ込み、危険を見ないようにしてやり過ごすといわれ、「ostrich(ダチョウ) policy」(現実逃避策)といった言葉もある。目がくらむような巨額の借金を前にしながら、危機感が今ひとつ希薄なわが国の現状が、私にはダチョウの姿に見えて仕方がないのだ。

 財務省によると、国債や借入金、政府短期証券を合わせた「わが国の借金」は2013年度末で1024兆円。GDP(国内総生産)比2倍超の数字は莫大(ばくだい)な戦時債務が重なった終戦時に匹敵し、OECD(経済協力開発機構)加盟の34カ国を見ても、このような巨額な借金を抱える国はない。

 総額95兆円の今年度一般会計予算を家計に例えれば、月収(税収など歳入)54万円の家庭が毎月41万円の借金(国債発行)をし、月95万円の生活をしている状態。4分の1近くの23万円は借金返済(利払いを含めた国債費)に充てられ、差額の72万円が実生活費となる。

 それでも収入を18万円も上回り、これでは収入と支出のバランス(基礎的財政収支、プライマリーバランス)はとれず、借金は雪だるま式に増える。日本には1400兆円に上る個人金融資産があり、国債の大半を国内で消化しているため問題はない、とする意見も聞くが、資金の余剰幅は年々縮小しており、素人目にはどう見ても危険水域に達している。

 財務相の諮問機関である財政制度等審議会は4月、このままで推移した場合、半世紀先の60年には国と地方の債務残高がGDPの約4倍、8150兆円に達するとの試算を公表した。現在、集団的自衛権論議が盛んだが、このままでは安全保障より年々、累積する債務で国が自壊しかねない。

 そうした悲劇を避けるには誰もが財政の現状を直視し、危機感を共有する必要がある。ダチョウのように都合の悪い現実に目を閉ざす姿勢はもはや許されない。

 ≪「あれかこれか」の時代に≫

 4月の消費税3%引き上げに先立ち、マスコミ各社が行った世論調査では「やむを得ない」とする声が半数近くを占め、財政の現状に対する危機感はそれなりに広がってきている。

 政府は来年10月の消費税2%アップを予定通り実施するか、年内に結論を出すという。消費税1%に伴う税収増は約2兆円。歳入を増やす有力な手段であるのは間違いなく、国民生活に大きな影響が出るのも否定しない。

 しかし、日本財団の姉妹組織、東京財団が行った各種シミュレーションでは、社会保障費の引き下げなど大幅な歳出削減を見込んでも、消費税だけで財政収支のバランスを取るには、30%前後まで上げる必要が出てくるという。直ちに実現するのは不可能な数字で、消費税増税は財政再建策のひとつであっても、すべてではないということだ。

 財政を立て直すには、あらゆる制度・仕組みを見直し、総力を挙げて「入」を増やし「出」を減らすしかない。「あれもこれも」の時代から「あれかこれか」の時代に変わるということだ。毎年1兆円もの規模で膨らむ社会保障費の抑制も避けられず、医療や福祉の在り方も変わらざるを得ない。気力、体力を備えた高齢者や子育てが終わった女性が働ける「場」の整備も急務となる。

 「明日の日本」をどう築くか、政治家は議員定数、報酬削減を早急に実現し、有権者受けを狙った“ばらまき”と決別すべきだ。「先(ま)ず隗(かい)より始めよ」。それが自らの覚悟と範を示すことになる。

 メディアも消費税の引き上げの是非だけでなく、言論機関として大局的な視点に立って財政の現状と課題を国民に知らせ、広く議論を提起するよう期待する。

 江戸時代、米沢藩の上杉鷹山公は藩財政の窮状を藩民に分かりやすく説明するとともに目安箱などで幅広い知恵を集め、財政支出の削減と産業振興による収入増を実現することで領地返上寸前だった藩財政を立て直した。今、求められているのは、こうした知恵と行動だ。

 ≪国を挙げ立て直す気概を≫

 日本は戦後70年間ひたすら豊かさを求めて走ってきた。巨額の財政赤字はその結果である。少子高齢化でただでさえ負担増を余儀なくされる次世代に、漫然と巨額の債務を引き継ぐことは許されない。そうでなければ世代間の亀裂が深まり、世界に誇る年金や国民健康保険も非加入者の増加で崩壊の危機に直面しかねない。

 この国は焦土と化した敗戦やオイルショックなど多くの国難を、国民の団結と協力で克服してきた。必要なのは、危機感の共有と財政立て直しに向けた気概である。日本がどう財政を立て直すか。財政悪化に直面する世界の国々が試金石として注目している。(ささかわ ようへい)
by denhazim | 2014-08-29 10:11