人気ブログランキング | 話題のタグを見る

★アベノミクスで財政再建は進んでいるのか

 ★アベノミクスで財政再建は進んでいるのか_f0180726_1123574.jpg

 ★アベノミクスで財政再建は進んでいるのか_f0180726_11223990.jpg

★アベノミクスで財政再建は進んでいるのか
  国の試算から見える、2020年度財政目標の進捗状況

財政再建へもシュート!?安倍政権は、美しいゴールを決められるか(ブラジルで、ロイター/アフロ)

これだけを取れば、日本の財政の見通しにとっては朗報である。しかし、今年半年たっただけで、なぜ1兆円近くも収支改善できる見通しに変わったのかが問題である。今年半年間で、将来の財政運営にも影響を及ぼすような歳出の大幅な削減策が打ち出されたり、税収を確保できるような抜本的な税制改革が実施されたりしたなら、試算結果が変わりうる。しかし、そうしたことは何もない(消費税率の引き上げは、前回の1月試算でも織り込み済みである)。

 では、経済成長による税の自然増収(税率を上げなくとも税収が増えること)が追加的に反映された結果、赤字が縮小する見通しになったのだろうか。この点について詳細に見てみよう。1月試算(以下①と表す)と7月試算(以下⑦と表す)を比べてみよう。

 名目成長率は、2014年度は①3.3%⑦3.3%、2015年度は①3.4%⑦2.8%、である。さらに2016年度は①3.8%⑦3.6%、2017年度は①3.4%⑦3.4%である。そして、2020年度は①3.6%⑦3.6%である。

 要するに、今回の7月試算は1月試算より、2015年度と2016年度で名目成長率を下方修正しているのである。さらに、名目GDPは、発射台となる2014年度は①500.4兆円⑦497.5兆円と、1月試算の方が高い。その結果、2020年度の名目GDPは、①616.8兆円⑦609.0兆円と、7月試算は1月試算より7兆円近く少ないと試算されている。

 少なくとも、これだけ見れば、7月試算は、1月試算より経済成長率が高まると修正されて税の自然増収がより多く入るために、増税をしなくても収支が改善する、という推論は成り立たない。

 ところが、税収等の見通しは次のようになっている。公表されているのは、国の一般会計の分だけだが、2014年度は①54.6兆円⑦54.6兆円、2015年度は①59.9兆円⑦60.2兆円、2016年度は①65.2兆円⑦65.5兆円、2017年度は①67.2兆円⑦67.6兆円、そして2020年度は①73.9兆円⑦74.5兆円となっている。なんと、2020年度の一般会計の税収等だけをとっても、7月試算は1月試算よりも0.6兆円多くなっているのである。

●「名目成長率下方修正でも税収増」の理由は不明

 もちろん、2020年度だけ帳尻を合わせるかの如く、突然税収が増えているわけではない。2015年度以降、徐々に税収が増えるという見通しに上方修正されていたのである。

 ちなみに、国の一般会計の政策的経費(基礎的財政収支対象経費)の試算を見ると、2020年度は1月試算も7月試算も同じ84.0兆円である。国の一般会計の基礎的財政収支は、7月試算は1月試算に比べて、税収等が増えた分と同じ額である0.6兆円改善していると上方修正されている。国と地方の基礎的財政収支が0.9兆円改善するとの結果と比べれば、地方財政の影響もありながら、国の一般会計だけでその大半の要因となっていることがわかる。

 こうしてみれば、今回の「中長期試算」は、1月試算と比べると、特段の歳出削減が見込まれているわけではないが、名目成長率が下方修正されているにもかかわらず、税収等が上方修正された結果、基礎的財政収支赤字が縮小されるという様相が見えてきた。

 名目成長率が下方修正されていながら、税の自然増収がより多く上がるとの見通しを示したということは、なぜなのだろうか。残念ながら、「中長期試算」として公表されている情報だけでは、その要因を細かく分析することはできない。

 ただ、筆者の推論で言えば、昨今の税制をめぐる議論を踏まえれば、この主因は法人税と考えられる。1月試算段階では、2013年度の法人税収で自然増収がいくらになるかはわかっていなかった。

 しかし、7月初旬には2013年度の法人税収が大きく上振れたことが判明した。今回の「中長期試算」では、この効果を織り込んだとしても何ら不思議ではない。1月試算では、すでに確定している税制改正は織り込んでおり、それ以降税制の変更は何も決まっていない。

●なお11兆円の基礎収支赤字、聖域なき見直し不可避

 もちろん、(消費税率を10%にする以上に)増税することは何も決まっていない。名目成長率が下方修正されていながらも、税収等が増えるということは、この法人税収の自然増収の度合いが大きかったことを、1月試算よりももっと大きく7月試算で織り込んだことぐらいしか、他に考えられない(しかし、これは内閣府が税目別の税収試算を公表していないために、筆者の根拠ある推論にとどまる。内閣府は税目別の税収試算を公表すべきである)。

 とはいえ、それでもなお2020年度の基礎的財政収支は11兆円もの赤字であることには変わりはない。何の政策努力を追加的に行わなければ、財政健全化目標は達成できないのである。しかも、11兆円という金額は公共事業費や公務員人件費を削ったぐらいではとても捻出できない額である。

 そのうえ、3.5%前後の名目経済成長率を織り込み、それに伴う税の自然増収を反映してもなお残る赤字額である。財政健全化目標を達成するためには、社会保障給付の聖域なき見直しや追加的な増税は不可避である。
by denhazim | 2015-08-04 11:23