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三菱地所、「日本一の超高層ビル」計画の薄氷 甦る「ランドマークタワー」の苦い記憶





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三菱地所、「日本一の超高層ビル」計画の薄氷 甦る「ランドマークタワー」の苦い記憶

 「常盤橋は東京の新たなシンボルとなり、日本経済を牽引するプロジェクトとなる」(三菱地所の杉山博孝社長)

 JR東京駅の日本橋口前に広がる常盤橋街区。三菱地所は8月31日、ここに高さ390メートルとなる日本一の超高層ビルを含む、四つのビルを建設する計画を発表した。

 49万平方メートルのB棟を筆頭として、総延べ床面積は68万平方メートルに及ぶ。都心3区の大規模オフィス年間供給量は約66万平方メートル(エレベーターなど共用部分を含まず、1994~2014年平均、森トラスト調べ)であり、今回のプロジェクトはこれに匹敵する規模だ。

 この街区には、過半を握る三菱地所のほか、東京都、大和証券グループ本社、三越伊勢丹など、多くの地権者が名を連ねている。敷地の地下には東京都の下水ポンプ場、東京電力の変電所、首都高速道路の地下駐車場など、複数の公共インフラがある。

 「工事中も下水処理などを止めるわけにはいかない。先にインフラ系の工事を進めるので、プロジェクトは大掛かり、かつ長期化する」(三菱地所)。これらの事情が再開発の足かせとなってきた。

 だが、昨今の規制緩和により、こうしたネックが一転して再開発を後押しする要素となった。都市基盤を更新することで「国家戦略特区」として容積率の緩和が認められるほか、隣接する街区に建つビルを取り壊し、公園の一部として一体整備することで、その分の容積率が常盤橋街区に上乗せされる。今年度中に特区認定を受けた後、2017年度に着工し、2027年度にすべてのビルが竣工する予定だ。

 常盤橋街区の再開発は、同社が中心となって進めている「大手町連鎖型再開発プロジェクト」の一環として、計画されてきた。連鎖型とは、建物の建て替えの際、引っ越しが一度で済むように換地を繰り返す手法。第1次再開発が竣工したら、第2次再開発の地権者がそこへ移るという具合だ。常盤橋はその集大成という位置づけである。

 「常盤橋は丸の内、大手町に日本橋、神田、八重洲を含めた、広域東京駅周辺地域の中核的エリアとなる。隣接する地区との連携を保ちつつ、街づくりを進めたい」(三菱地所の合場直人専務)

 実際に日本橋エリアから見ると、常盤橋は東京駅からの動線に当たる。日本橋に本社を置くライバルの三井不動産も、「今回の開発は日本橋地域にとっても価値向上につながる」と好意的にとらえる。

 近隣でオフィスビルを建設中の中堅不動産デベロッパーも「競合する懸念より、地域の活性化によるメリットが大きい」と語る。

 むしろ警戒しなければならないのは、ほかならぬ三菱地所自身かもしれない。思い起こせば、同社は過去にも“日本一の超高層ビル”を建設したことがある。1993年に横浜市のみなとみらい21地区に竣工した横浜ランドマークタワー(高さ296メートル)だ。

 同地区のシンボルとするべく、「日本一の高さの建物を建てるという強い意志の下、総事業費2700億円をかけて建設した」(三菱地所)。が、巨額投資は長年にわたり、同社を悩ませてきた。

 賃料などの収入が当初の計画に届かず、2002年と今年3月の2度にわたり損失処理を行った。特別損失額は累計で1000億円を超えたとみられる。

 新国立競技場問題が示すとおり、規格外の建物は採算のよいものではない。ランドマークタワーから高さ日本一の座を奪うビルは、14年に竣工したあべのハルカス(大阪市、高さ300メートル)まで、21年間も現れなかった。そのことがこのビルの怪物ぶりを示すとともに、突出したビルを建設することに対する不動産各社の警戒心を物語る。

 常盤橋の再開発に関して、三菱地所は投資額の正確な数字はまだ持ち合わせていないとしつつも、「土地を含めると、計算上は1兆円を超えるようなプロジェクト」(合場専務)という。このうち、土地資産が6000億円を占めるとみられるが、それを除いても建設費は巨額だ。

 開発期間は2020年の東京五輪をまたぎ、リニア中央新幹線の開業時期と重なる。その間、周辺エリアでは、再開発が目白押しだ。

 中でも、東京駅東側の正面玄関に当たる八重洲中央口の向かいでは、三井不動産が29万平方メートルのビルを2021年度、東京建物が24万平方メートルのビルを2024年に竣工する計画がある。これらのビルにテナントを先に取り込まれてしまう懸念は大きい。

 三菱地所は、人や企業の集積で街の価値は向上すると見て、再開発後の常盤橋での賃料について、国内最高の丸の内と同水準か、それ以上を想定している。ただ、賃料水準を維持しながら、都心3区の1年分の供給量に相当する広大なフロアを埋めるのは、容易なことでない。

 加えて五輪後は、国内景気が後退するとみられている。そこに68万平方メートルもの新規供給がなされれば、周辺エリアの賃料にも、少なからぬ影響を与えるはずだ。

 「シンボル」という甘美な響きには、冷静な思考を止める力がある。横浜の教訓を生かすことはできるか。
by denhazim | 2015-09-14 15:38